Research — 梅田栄作 (Eisaku Umeda)
Research
1. 私の研究のはじまりと最初に出版された論文
私の興味は「生活史戦略(life history strategy)の進化」にあります。生活史戦略とは、生物が特定の環境で適応度を最大化するために採る、繁殖と生存の行動の組み合わせを指します(Buss & Schmitt, 2019)。たとえば植物がいつ、生涯で何回花を咲かせるか、といった特徴です。サクラは毎年花咲きますが、竹林へ行ってもほとんど花を咲かせていることはありませんよね。このような、生き物がいつ育ち、いつ繁殖するかといった特徴が、大小・種類を問わず、どのように多様になったかに興味があります。
きっかけは偶然読んだ指導教官の論文で、ササタケ類が開花まで待つ年数が、地下茎が長いほど長くなることを示した理論研究でした。ササタケ類は「一回繁殖型・多年生」という生活史を示します。種子から発芽した後、何十年もの間、地下に枝を伸ばしてクローン(いわゆる「タケノコ」です)を生産し、やがて一斉に開花・枯死するのです。この発芽から開花までかかる時間は種特異的であり、3年から120年まで幅があり、アジアでは熱帯から温帯に向かって長くなる緯度的勾配が見られます。この緯度的勾配を生み出すのが地下茎構造の違いではないか、というのがこの論文の主張でした。
実は、日本や中国、韓国といった東アジアの国々では竹林があるのに、インドネシアやインド、スリランカでは竹林はみられません。熱帯アジアに分布するササタケは、クローンを親のそばに生産・配置します。これは地下茎構造の違いに由来します。温帯型のササタケ類は細く長い地下茎を、熱帯型は太く短い地下茎を種特異的に有するのです。Tachiki et al. 2015 J. Ecol. は、開花周期に見られる緯度的勾配は、地下茎構造の熱帯から温帯にかけた違いと同様の傾向を示しているだけでなく、その地下茎構造の違いが緯度的勾配の創出要因ではないかと示したのです。
この論文は私が初めて読んだ数理生物学の研究論文であり、それまでの私の世界にはないものでした。地下茎が長いとクローン間の距離が離れる。そのため開花まで待つ期間に生じるクローン間の競争が緩和される。結果、クローナル成長効率が改善され、より開花が遅延する。高校時代は文芸部に所属しており、伊藤計劃や円城塔のSF小説に憧れて、自分でも思弁的な(つもりの)空想小説を書いていた私にとって、その営みは非常に刺激的でした。数理という道具を使えば、まるでSF小説の登場人物のように、真理を探求できる。そういう手応えが、Tachiki et al. 2015 J. Ecol. からは感じ取れました。本気でこれをやりたい! そう思いました。
当初は先行研究の結果をどうしても再現できず、原因を探るうちに、鍵が一方向的競争にあると分かってきました。光をめぐる競争では、背の高い個体が光を独占し、低い個体を被陰します。優位が一方向にしか働かないこの非対称性は、先行研究では暗黙に仮定されていましたが、私のモデルでは明示的に組み込む必要がありました。この仮定を正面から扱って解析した結果をまとめたのが、立木先生との共著 Tachiki & Umeda(2026)です。種子由来の子孫と、地下茎を介してクローナルに生産された子孫のあいだの非対称な競争が、一回繁殖型の多年生植物における異常に長い開花時間の進化を促しうることを示しました。
現在は、2報目の研究に取り組んでいます。
References
- Buss, D., & Schmitt, D. (2019). Mate preferences and their behavioral manifestations. Annual Review of Psychology, 70(1), 77–110.
- Tachiki, Y., Makita, A., Suyama, Y., & Satake, A. (2015). A spatially explicit model for flowering time in bamboos: long rhizomes drive the evolution of delayed flowering. Journal of Ecology, 103(3), 585–593.
- Tachiki, Y., & Umeda, E. (2026). Asymmetric competitions between seedling and clonal ramet promote the evolution of extraordinary long flowering time in monocarpic perennial plants. Plant Species Biology, 41(1), e70039. doi:10.1111/1442-1984.70039